調査委員による調査報告書の提出期限である2月28日が近付いてきています。
当職らは、昨年11月24日に民事再生手続開始の申立てを行って以降、破産管財人、調査委員及び裁判所と複数回面談し、当職らの意見を伝え、理論的な問題点について調査し情報を提供するなど、再生手続が開始されるための様々な準備活動を行ってきました。
こうした活動のなかで、当職らが現在把握している、再生手続開始にあたって問題となる論点について、以下説明します。いずれの論点も先例のない論点ではありますが、当職らとしては、いずれの論点も解決可能で、再生手続開始のための障害にはならないと考えています。
(1) 再生手続開始の条件
再生手続が開始されるための条件は、民事再生法25条に規定されています。
民事再生法25条は、再生手続の開始が相当でない4つの場面(1号から4号)を定め、この4つの場面に該当しない限りは、裁判所が再生手続を開始することを定めています。
本件では、この4つの場面のうち、以下の2つが問題となります。
- 民事再生法25条2号:裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき
- 民事再生法25条3号:再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき
本件の再生手続開始の申立てが、上記の2号又は3号の場面に当たると判断されると、申立ては棄却され、再生手続は開始しないことになります。しかし、当職らは、以下のとおり、本件は上記の2号又は3号の場面のいずれにも当たらず、再生手続を開始すべき事案であると考えています。
(2) 民事再生法25条2号について
民事再生法25条2号は、再生手続よりも前に破産手続が係属している場合に、破産手続のほうが債権者の一般の利益に適合する場合は、再生手続は開始されないと規定しています。そこで、本件では、Mt.Goxについて、再生手続よりも現在係属している破産手続のほうが、「債権者の一般の利益に適合する」といえるかどうかが問題になります。
「債権者の一般の利益」とは、「一般の」とあるように、個々の債権者や特定のグループの債権者を対象とするのではなく、債権者全体にとって利益となるかどうかで判断されます。
本件の破産手続では、BTC引渡請求権が破産手続開始決定時における評価額で金銭化されてしまうため、破産債権者に配当を終えた後の残余財産がある場合は、その残余財産はMt.Goxの株主に分配されてしまいます。株主への分配額は、BTCの取引価格を再生手続開始申立ての直前(2016年11月21日時点)の916,762円/BTCとして仮に計算すると、約1600億円となります。これに対し、再生手続が開始されれば、この約1600億円は債権者に分配されることになるため、債権者全体として約1600億円の経済的利益が得られることになります。この結果からすれば、破産手続よりも再生手続のほうが債権者全体の利益に適合し、本件が民事再生法25条2号の場面に当たらないことは明らかです。
(3) 民事再生法25条3号について
民事再生法25条3号は、再生計画案の作成、その債権者集会における可決、裁判所による認可のいずれかについて、その見込みがないことが「明らか」な場合には、再生手続は開始されないと定めます。見込みがないことが「明らか」であるとして、3号に該当するレベルとしては、再生計画案の作成等の見込みがないことが、疑う余地もないほどはっきりとしている、極めて例外的な場合に限定されるべきと考えられています。
本件では、どのような内容の再生計画案が作成されるかは今後の課題ですが、現時点において、疑う余地もないほど明確に、再生計画案が作成できない、債権者集会での可決が得られない、裁判所からの認可が得られないと判断できる事情はありません。そうである以上、本件は民事再生法25条3号に該当せず、再生手続が開始されるべき案件であるといえます。
以上となりますが、当職らは、倒産法の分野で非常に高名な法学者から、当職らの意見を裏付ける意見書を取得し、既に関係者に提出しています。
これまでの活動が成功し、再生手続が開始されることを当職らは強く期待しています。